年間を通して降水量の多い日本では、大雨や台風による水害が後を絶ちません。
茨城県内でも今月6月2日から3日にかけての観測史上最大級の大雨では、床上浸水が8市町で計451棟(4日午後6時時点)もの被害が出ています。
そのなかでも、約1100世帯が暮らす取手市双葉地区では、市が用水路から小貝川に排水するポンプを5台常設、臨時で数台追加したものの床上浸水が436棟と甚大な被害を出しました。
このように、近年では自治体が対策を行っても、その処理能力を超える大雨が増えています。
水害の復旧消毒を行っているSweepersでも作業件数は増えています。
また、都市部での「内水氾濫」による被害も増えています。
内水氾濫とは、短時間の集中豪雨により下水道などの排水機能が追いつかなくなることで、地上に雨水が溢れ出してしまうことです。
近くに河川が流れていなくても、水害にあう可能性は0ではありません。自宅は大丈夫!とは考えずに事前に知識を付け備えておくことが大切です。
ここでは、水害による浸水被害にあってしまった場合のご自身で行える初期対応や保険、公的支援などについて説明していきます。
目次
住宅が浸水被害にあった場合の初期対応について
住宅が浸水被害にあってしまった場合、住宅へのダメージを最小限に抑えるために迅速に対応することが大切です。
下水や泥水など不衛生な状態が続くと不快臭やカビの発生のほか、最悪の場合、感染症を引き起こす可能性もあります。後々リフォームが必要になることになるかもしれません。
住宅が浸水被害に合った場合の初期対応については、まずは以下の3点を行ってください。
(1)カメラやスマートフォンで被害状況が分かる写真を撮る
これは後に説明する罹災証明書の申請の際や保険を使う際に必要となります。清掃や片付けを行う前に被害状況を写真で記録してください。
<写真撮影のポイント>
①浸水の深さが分かるように撮影しましょう。
実際に水が溜まった状態か、難しい場合には水が引いてからその跡が残りますからその跡を撮影します。この際、メジャーなどを当てて全体が分かる写真「引き」とメジャーの目盛りが読める写真「寄り」の2種類を残しておくと良いでしょう。
②家の外と部屋の中を撮影しましょう。
家の外から写真を撮る時は、4方向から撮るようにしましょう。部屋の中を撮るときは、浸水のあった各部屋を撮りましょう。また、床下や家具など、浸水で損害が生じた可能性のある箇所の写真も残しておくと良いでしょう。
③カメラやスマートフォンの日時設定を正確にしておき、撮影日時が分かるようにしておきましょう。
(2)浸水被害を証明する罹災証明書を申請する
罹災証明書とは、被災状況やその程度を行政が認定してくれる書類です。これは、保険で補償してもらう際や公的支援を受ける際に必ず必要となります。
なお、対象となるのは国や県が指定した災害で、自治体によって異なる可能性があります。一般的には、暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象、大規模な火事、爆発などが対象となります。水害に伴う浸水被害もこの対象となります。
大半の自治体では、火災の場合は消防署で、火災以外の災害については市区町村役場で罹災証明書が発行されます。
申請の際、注意してほしいのが申請期限です。自治体によって申請期限に差がありますので自治体への確認が必要です。目安として、被災してから3ヶ月としている自治体が多いですが、1ヶ月程度の自治体や6ヶ月以上期限を設ける自治体もあります。また、災害の規模によっては申請期限が延長されることもありますので、自治体のホームページや市報などで申請期限をよく確認しておきましょう。
罹災証明書の発行申請の流れは以下の通りです。
まず、罹災証明書を申請する際には、以下の3点が必要になります。
①罹災証明交付申請書
市区町村の担当部署に備え置いてありますが、ホームページからダウンロードできる場合はそれを使用することもできます。自治体によって書式が異なるため、申請する自治体のホームページ等で確認してください。
②被害状況が確認できる写真
③身分証明書
本人確認のために必要となりますので、運転免許証やパスポート、健康保険証などを持参しましょう。なお、身分証明書などが消失して持参できない場合は、事前に連絡して相談しておきましょう。
④その他、自治体によって必要なものを指示される場合があります。事前に確認しておきましょう。
注意!!!
罹災証明書の発行申請は被災した住家の居住者または所有者が行うことになっています。被災者と同一世帯の方や三親等以内の親族、法定代理人などによる申請は委任状が不要な自治体も多いですが、委任状が必要な場合は戸籍謄本や住民票など被災者との関係が分かる書類が必要となります。
罹災証明書の発行申請後、担当職員等が内閣府の被害認定基準の運用指針に従って被害の程度を認定した上、罹災証明書が発行されます。発行されるまでは現地調査から最低1週間はかかります。
(3)ご自身で行える範囲で清掃・消毒を行う
写真撮影を終えたら、ご自身のできる範囲で排水や汚泥の除去を行いましょう。排水は給水ポンプを使用したり水量が多い場合はバケツでもできます。出来るだけ早く床下の排水、乾燥を行う事がのちの復旧作業のポイントになります。
①家財道具の仕分け・搬出
使用できなくなってしまった家財道具は残念ながら処分となるでしょう。
使用できなくなった家具や家電は災害ゴミとして、自治体が臨時集積所などを設けて処理してもらえるのが一般的です。お住まいの自治体に確認し、指示に従い処理しましょう。
<濡れても使用できるもの>
・衣装ケースやイスなど、プラスチック製品(水洗いできるもの)
・ラックなど金属製品(サビを防ぐため早めに洗浄し乾燥させる)
・無垢材製品(無垢材とは、テーブルやイス、床材などに使用される木材です) など
<使用できないもの>
基本的に家電など水洗いや水拭きができないものは処分となってしまうでしょう。
また、水を吸った畳や襖、ソファー(乾燥させても反ってしまったり泥が中に残ってしまう)
MDF材(カラーボックスなどに使用され、水分を含むとブカブカになってしまう)があります。
木材は一見使用できそうに見えても反っていたり歪んでいる場合があるので乾燥させてから確認が必要です。
②床や家財道具などに付着した泥水や汚泥をふき取る
家財道具の搬出が終わったら、床や家財道具などに付着した泥水や汚泥を水拭きします。どの消毒液を使用する場合でも、汚れをよく落としてから消毒を行うことが大切となるますので念入りに行います。
③可能であれば、床下に水が溜まっている場合にはバケツやタオルでできるだけ排水する
④換気や扇風機で室内や床下を乾かす
⑤水洗いできるものは、食器用洗剤や石鹸で洗う
⑥最期に消毒をする
・消毒用アルコールの場合
原液のまま拭き上げ、乾燥させる。
・(次亜塩素酸ナトリウム⦅家庭用塩素系漂白剤⦆をに希釈したもの)
ハイターの場合、水3ℓにペットボトルキャップ2杯分で希釈(約0.1%)し、拭き上げ乾燥させる。サビの原因となるため金属製品は避けるか拭き上げ後に水拭きする。
・塩化ベンザルコニウム(逆性石けん)
0.1%に希釈したもので拭き上げ、乾燥させる。
*床上浸水の清掃・消毒作業に必要なもの、あると便利なもの
・マスク
・手袋(軍手やゴム手袋)
・土嚢袋
・ゴミ袋
・タオル(使わなくなった古い衣服やタオル)
・ほうき(ちりとり)
・バケツ
・スコップ
・水切りワイパー など
これらはすべてホームセンターなどでそろえることができます。ただし災害時、土嚢袋などは品薄になる場合がありますので注意が必要です。
注意!!!
清掃・消毒の際には、必ずマスク・手袋を着用してください。汚泥には細菌やカビが含まれていますから、感染症やケガを防ぐため市販のマスクと手袋を着用することが大切です。
*この際に出たゴミ袋や土嚢袋、使用できなくなった家具や家電は災害ゴミとして、自治体が臨時集積所などを設けて処理してもらえるのが一般的です。お住まいの自治体に確認し、指示に従い処理しましょう。
原状回復工事が必要な場合とは
浸水時間が長くなってしまうとリフォームが必要となる場合が多くなります。床や壁などの表面の清掃・消毒を行いよく乾燥させたとしても、その内部に水分が残ってしまい劣化やカビの発生を引き起こす場合があります。住宅内装は基本的に水に弱いと考えてください。
①床について
床材には無垢フローリングやクッションフロア、フロアタイル、畳などがあります。無垢フローリングを除いて、基本的に床は合板の上に仕上げ材を接着しているため、その接着が剥がれ、反ってしまったり、合板にカビが発生したりと浸水には弱いです。無垢フローリングでも反ってしまうことがあります。
②壁について
現代住宅の場合、壁はクロス(壁紙)その下に石膏ボード、さらに断熱材が使われています。浸水によってクロスのシミや剥がれ、石膏ボードももろくなってしまうことが考えられます。
また、繊維系(グラスウールやロックウール)の断熱材を使用している場合、再利用は基本的にできません。一度水を含むと乾燥しにくく、その間にカビが発生してしまいます。
③設備類について
基本的に木材を使用しているドア枠やサッシ、キッチンや洗面所のキャビネットなども歪みや反りが起こり、ドアや扉が閉まらなくなることがあります。
浸水被害にあった場合の火災保険での補償について
火災保険で補償される項目の一つに「水災補償」があります。これは、台風や、豪雨などによる河川の氾濫、内水氾濫、融雪洪水、高潮、土砂崩れ、落石などによって、建物や家財に所定の損害を受けた場合に補償を受けることができるものです。
自然災害による浸水被害は、水災補償の対象となります。(給排水設備の破損や詰まりなどによる漏水、マンションの上の階からの漏水、雨漏り等で建物や家財が損害を受けた場合は、「水ぬれ」の補償対象となります。)
一般的に、水災補償には以下の支払基準が設けられていますこの支払基準に満たない場合は保険金は支払われませんので注意が必要です。
水災補償は基本的に火災保険の他の補償と同様に、補償の対象(補償の範囲)を「建物のみ」「家財のみ」「建物と家財の両方」の3種類から選ぶことができます。(補償の範囲は、保険会社によって異なりますので注意が必要です。)
<補償対象となる「建物」「家財」>
①建物
建物本体に加え、建物がある敷地内に設置され、かつ契約者が保有しているもの。建物内にある床暖房やトイレ、システムバス、システムキッチンなどの動かせないものも「建物」に含まれる。
②家財
家具や家電製品など、建物がある敷地内に収容されているもの。
<水災補償の支払基準>
①建物(家財)の保険価額に対して30%以上の損害を受けた場合
②「床上浸水」[ 畳やフローリングなどの居住部分の床を超える浸水のこと]または「地盤面[ 建物が周囲の地面と接する位置のこと]から45cmを超える浸水」によって損害が生じた場合
これらの補償基準を満たした場合に支払われる損害保険金は、損害額から、免責金額(契約時に決める自己負担額)を差し引いた金額となります。(支払い要件の基準や損害保険金の算出方法は、保険会社によって異なります。)
まずは、ご自身が契約している火災保険の契約内容に、
①「水災補償」が含まれているか
②水災補償の対象を「建物のみ」「家財のみ」「建物と家財の両方」
のどれにしているかを保険証券や相談窓口等でご確認ください。
浸水被害にあった場合の国や自治体による公的支援について
浸水被害の際、受けることのできる国の公的支援として、
①「被災者生活再建支援制度」
②「災害救助法」
があります。適用条件としては、市区町村なら10世帯以上、都道府県なら100世帯以上の住宅が全壊するなど、地域全体の被害規模が一定を超えることが条件とされます。また、支援金を申請できるのは被災した家に実際に住んでいた世帯(持ち家に限らず、借家も含む)となります。
これらの公的支援を受ける上で重要なのが罹災証明書に記載される「損壊の程度」です。
2階建てまでの木造の一軒家で「水流や漂流物などによって一定程度の損傷がある場合」の内閣府の定める基準が下の図です。
床上浸水した箇所の最も浅い部分が床上180cm以上で「全壊」となります。床上100cm以上を「大規模半壊」、50cm以上100cm未満は「中規模半壊」、床上50cm未満は「半壊」、そして準半壊に至らない「床下浸水」と定められています。
内閣府「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」より
この基準に沿って、それぞれ下記のように支援金を受け取ることができます。
①被災者生活再建支援制度
全壊:最大300万円
大規模半壊:最大250万円
中規模半壊:最大100万円
床上50cm未満の半壊、床下浸水:対象外
②災害救助法
全壊:なし
大規模半壊:最大57万6000円相当
中規模半壊:最大57万6000円相当(所得制限あり)
内閣府「被災者生活再建支援制度の概要」より
そのほか、都道府県独自の支援制度が設けられていることがあります。
一例として、茨城県では「茨城県災害見舞金」制度があります。これは県内1市町村の区域内において5世帯以上の住家が全壊又は半壊した災害、同一の原因で発生したその他の市町村度の災害を対象とし、床上浸水の場合、最大2万円が支給されるものです。まずはお住まいの自治体の相談窓口で確認してください。
他にも半壊の場合には、住居の居室などの応急修理のための費用、仮設住宅等支援、税金の減免、住宅融資の優遇など、さまざまな支援制度があります。
自宅が浸水被害にあった際の心強い味方「水害復旧業者」とは
「水害復旧業者」とは、水害が起こった際に、床上や床下にたまった汚泥入りの水を抜き、雑菌による被害を防ぐために消毒を行ったり、汚泥の排出、カビの除去や防カビ施工、消臭作業を行う業者です。
台風などによって水害が引き起こされると、様々なものが雨水や泥水に浸かってしまうだけでなく、生活汚染水などによって屋内外が汚染されてしまいます。河川から流れた水や下水、生活汚染水に含まれる雑菌は、気温などの条件によってあっという間に繁殖してしまいます。
そのため、水が引いたからといって除菌消毒を行わずに放置をしてしまうと、感染症などの二次被害のリスクも高くなります。また、雑菌は床や室内空間、壁、家財だけでなく床下などにも強く付着していますので、「空間」と「物体」の二方向の除菌消毒作業が必要となります。
そういった事態を防ぐために、水害が起こった際には、水害復旧業者による清掃・消毒・防カビ作業が必要になるのです。
水害復旧業者は水害時における洗浄や消毒、除菌のプロです。水害が発生した地域では、被災者の方々が心身ともに疲弊していると思いますが、水害復旧業者はきっとそうした皆さんの心強い味方になるはずです!
<水害復旧業者に作業を頼むべき理由>
自宅の浸水被害で溜まった水が捌けたら、すぐにでも清掃作業に入るべきではありますが、最適な方法はやはり水害被害時の清掃・消毒実績のある特殊清掃業者に依頼することです。
もちろん、ご自身で床上や家財などの清掃、除菌は行うことは可能ですが、先に述べた通り、ご自身で清掃・除菌を行える箇所以外にも雑菌は付着していますので、プロによる「空間」と「物体」の二方向からの清掃・除菌消毒作業が確実となります。
<浸水被害に潜む二次被害>
①悪臭
泥水や汚水を放置してしまうと、雑菌が繁殖しやすい環境を物理的に作ってしまいます。また、水が捌けた後も悪臭が自然に消えることはありません。長期間臭いを浴びていることで、体調にも影響が出る可能性があります。
②害虫
泥水や汚水には害虫が住み着いているため、悪臭発生と共に害虫が産卵しやすい環境になります。(蚊やチョウバエなど)少しでも水が溜まっていることで産卵を促したり、害虫の都合の良い住処になってしまうことになりかねません。また、外から泥水や汚水によって運ばれてくることで床下に住みつく害虫(ノミ、ダニ、ムカデ、ヤスデ、シロアリなど)もおり、人や家屋に影響を及ぼす可能性もあります。
③感染症
雑菌や害虫の発生によって人体に影響が発生する場合もあります。
泥水や汚水に含まれる雑菌によって感染する可能性が高いのは、レジオネラ菌による「レジオネラ肺炎」と「ポンティアック熱」「破傷風」の三つです。
また、害虫である蚊の種類によっては感染症の媒介役となる危険があり、刺された後の痒みだけでは治らず、発熱やアレルギーなどを引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
④木材、断熱材の劣化
適切な清掃・消毒を行わないと、泥水や汚水によって木材が使用されている床や建具、家具などが腐ったりカビが繁殖することがあります。
これらのリスクを防ぐためにも水害復旧業者に徹底した作業を依頼するのも検討してはいかがでしょうか?
最後に
今回は、浸水被害にあってしまった場合のご自身で行える初期対応や保険、公的支援などについて説明しました。住宅や家財道具へのダメージを最小限に抑えるためには迅速に対応することが大切です。そのためには、事前に知っておく、備えることが必要です。皆さんの参考になれば幸いです!