
デジタル遺品とは
デジタル遺品とは、パソコンやスマホなどの端末に保存された写真や画像や、インターネット上で契約した各種サービスなどの情報やデータなど、インターネットの中にある自分だけの財産のことを指します。デジタル遺品は本人以外の人が情報を知る手段がほぼないということが厄介な性質としてあります。
現在デジタル遺品についての法整備は日本においてあまり進んでいません。そのため、引き起こされるトラブルを事前に認識しておくことが重要になります。
デジタル遺品の種類

一口にデジタル遺品といっても、その中には様々な種類があります。
スマホやパソコンなどのデジタル機器
最も広く知られているデジタル遺品として、パソコンやスマートフォンがあります。これらはデジタル機器として分類され、機器本体だけでなく、中に入っている電話番号や住所などの個人情報や写真、画像、アプリ、クラウド上の情報までを含みます。
ネット上にある情報
デジタル遺品となるネット上の情報とは、次のような物を指します。
- LINEやX、InstagramなどのSNSデータ
- iCloudやGoogledriveなどのクラウドストレージ
これらの情報に写真や人名、地域名が入っていると、個人が特定されたり、犯罪に悪用される可能性があります。
ネット口座の情報
ネット口座の情報には、次のような物があげられます。
- ネット銀行口座
- ネット証券・FX口座
- 仮想通貨口座
- 電子マネー
ネット銀行は、店舗に行くことなく解説できることや振込手数料やATM利用時の手数料が安く抑えられるといった理由から、多くの人が利用しています。また、ネット銀行が普及したことにより、インターネットを利用して投資をする人も増えています。
ネット口座を確認するためには、本人が設定したIDやパスワードが必要になります。
これらのデジタル情報を誰にも伝えずに亡くなってしまうと、遺族がネット口座の存在に気付かず、相続できなくなってしまう恐れがあります。
また、ネット口座の存在を認識していたとしても、ログイン時にIDやパスワードが分からなくて開示請求に時間がかかり、相続税の申告期限に間に合わなくなってしまう可能性があります。
デジタル遺品を生前に整理しておかなければいけない理由

相続時のトラブルを防いだり、遺族の負担を軽減するためにも、デジタル遺品は生前整理しておくのが理想的です。
故人のスマートフォンやパソコンのパスワードが分からない、SNSやネット銀行、インターネット上で契約した有料サービスの解約ができないなど、亡くなってから問題が起きてしまうケースも少なくありません。
また、デジタル遺品を放置すると様々なトラブルに繋がってしまう可能性があります。
デジタル遺品によって引き起こされるトラブルとは
端末ロックが解除できない
特によく見られるのは、端末ロックが解除できず、中のデータにアクセスすることができないことで遺品整理や財産調査が進まなくなってしまうトラブルです。
遺族はまず最初に「誕生日などの可能性のある番号を片っ端から入力してみよう」と考える人が多いですが、この方法は基本的に推奨できません。なぜかというと、一時的に完全にロックされるだけならまだしも、端末内のデータが完全に消去されてしまう恐れがあるからです。iPhoneやiPadがこの機能を持つ機種の代表例として挙げられます。
だからと言って、専門業者に依頼してもロック解除やデータ復元に成功する保証はありません。「製品の信頼性」により技術そのものが公開されていないためです。
個人情報が悪用されてしまう
スマートフォンやパソコン内のデータを完全に削除できていないまま処分してしまうと、悪意の持った人の手に渡り、残存しているデータから個人情報が抜き取られてしまう可能性があります。
スマートフォンやパソコンには故人の氏名や電話番号、住所などの個人情報が含まれています。これらの個人情報を抜き取られた場合、故人になりすまして、遺族や故人と交流のあった人まで様々な犯罪に巻き込まれてしまう危険性があります。
例えば、故人になりすまし、SNSアカウントから友達登録している人に金銭を要求したり、抜き取ったクレジットカードの情報を用いて不正に利用したりされてしまう可能性があります。
ネット口座の場所が分からない
次によく見られるのは、ネット上に預貯金や証券類があると分かっていても、口座の場所(金融機関)が特定できず、結果相続手続きが遅れてしまうトラブルです。
ネット取引に特化したネット口座の利点は、いつでも・どこでも電子端末を利用し、残高の照会などの手続きができることです。マイボイスコム株式会社により、2023年1月1日より5日間行われたインターネットバンキングの利用経験率についてのアンケートでは、7割強の人が利用したことがあると回答したデータがあります。

口座名義人向けの案内をアナログで行う必要性が低く、経費削減のためにも年に数回しか郵送されないのが一般的です。郵便物を受け取った人も、不要と判断し早々に破棄してしまう場合もあります。
このことから遺品に金融機関名が記載された資料が残る可能性は低いです。そうすると、金融機関名を調べるための手段はスマートフォンやパソコンの利用履歴の確認のみになってしまいます。
つまり、先述の端末のロック解除の問題に辿り着きます。
遺産の相続漏れが発生する
故人がネット口座を利用していて、遺族がそれに気づかなかった場合、故人の財産は相続されず、ネット上に放置されてしまいます。
相続時に漏れたネット口座を含む預貯金は、10年が経過してしまうと請求権を失い、請求できなくなる恐れがあるので注意しましょう。
また、相続漏れで相続税の申告手続きをすると、ペナルティが発生し、税金が上乗せされてしまうので遺族に手続きの手間や金銭的な負担がかかってしまいます。
ネット上で契約していた月額・年額制サービス料金が発生し続ける
故人がネット上で月額・年額制サービスを契約していた場合、遺族が解約手続きをしない限り料金が発生し続けてしまいます。
近年、こうしたサービスの種類は多岐にわたり、趣味や娯楽だったり、ビジネス間でも利用されていることが多いほど充実しています。
そのため、遺族が把握していない様々なサービスと故人が契約していた可能性があります。一つ一つの金額は少なくても、解約までの期間が延びれば延びるほど、故人の財産が減っていくので注意しましょう。
例えば
- Amazonの年会費
- ネット型の生命保険や自動車保険
- アプリの料金
- 通販などの定期購買
上記の例はほんの一部にすぎません。
遺影の写真がない
故人の葬儀を執り行う際に必要になる故人の遺影ですが、スマートフォンやパソコンにアクセスできないと、デジタル機器から遺影となる写真を取り出すことができません。
その結果あまり映りがよくない写真や、古い写真を遺影にせざるを得ないトラブルが発生する可能性があります。昔であれば、カメラを用いて撮影し、プリントアウトするケースが多かったのですが、最近ではスマホのカメラ機能で撮影する人がほとんどで、プリントアウトまで行う人は少数化と思われます。
やむを得ず古い写真を使うことで、事情を知らない遺族から「どうしてこんな古い写真を使ったんだ」「故人がかわいそうだ」などと言われ、心に傷を負ってしまった。といったトラブルが発生してしまう可能性があります。
デジタル遺品を生前に整理する方法

これまで紹介したデジタル遺品に関するトラブルには、共通する大きな原因があります。それは、生前のうちに「スマホやパソコンなどの端末内にどのような情報があるのか」「それをどうやって整理すればいいのか」を伝えなかったことです。
したがって、デジタル遺品の生前整理とは、何があるか自分で具体的に認識し、遺品整理をする人に必要な情報を伝えことだと言えます。情報を伝える手段ですが、下記の方法が考えられます。
遺品情報についてまとめたメモやエンディングノートを作っておく
デジタル遺品に関する情報を簡単に伝える手段として、必要な情報をメモやエンディングノートに書き留めておいて、死後に見つけてもらえるようにする方法があります。
しかし、認知症によって自分で管理できなくなってしまったり、死後の手続き時の混乱に紛れてメモが紛失してしまう可能性も考慮しなければなりません。作ったメモやエンディングノートは重要書類として大切に保管しておきましょう。
契約サービスや口座を一覧にする
SNSアカウント、メールアカウントをはじめ、持っているアカウントとそのパスワードを把握しておくことは、生前整理において重要です。「アカウントのID」「利用しているサービス名」「ログイン時に必要な登録メールアドレス」「パスワード」をリストアップしておきましょう。
特に整理しておきたいのが、銀行口座、証券口座、定額サービスについての情報です。銀行・証券口座は相続時のトラブルに発展してしまう恐れがあるので、必ず遺族に分かるように準備しましょう。
銀行口座は名義人が亡くなってしまった場合、口座が凍結されてしまい、解約や預金の引き出しは家族が行うこととなります。しかし、ネット銀行やネット証券はアナログな通帳がないため、遺族でもいくつの口座を開設しているか把握できていないケースが多いです。
予めよく使う口座だけ残し、あまり使っていない口座を解約しておくのがいいでしょう。
見られたくないデータ・不要なアカウントは削除しておく
家族や他人に見られたくないデータは、常に整理しておくことをオススメします。また、見られたくないデータはフォルダに分けて、別でロックをかけておくといいでしょう。
その他にも、デジタル遺品で見られたくないデータがある場合は、外付けHDDやSDカードに保存して処分してもらう旨を遺族に伝えておく手段があります。
また、遺族に見られてもいい遺品をまとめておき、家族に予めその場所を伝えておくのも一つの方法です。
デジタル遺品を安全に処理する流れ

デジタル遺品は、適切に処理をしないとトラブルが発生したり、犯罪に巻き込まれてしまう可能性があります。しかし、デジタル遺品のロック解除から最終的な処分まで全ての流れを業者に依頼すると、費用が高額になってしまったり、見られたくないものを業者に見られる可能性があるので、できる限り自分で行いたいですよね。
デジタル遺品は、適切な手順を踏むことで、自分で安全に処理できる可能性があります。
デジタル遺品の適切な処理の流れを紹介いたしますので、是非チェックしてみてください。
デジタル機器のロックを解除する。
デジタル遺品を処理するには、まず最初にスマートフォンやパソコンなどのデジタル機器のロックを解除しましょう。しかし、遺族がデジタル機器をロック解除できず、デジタル遺品をそのままにしてしまうケースが多いです。
この場合、機器のロック解除は業者に依頼するか、パスワード解析ソフトを使って解除を試してみるしか手段がありません。
また、デジタル遺品のロックを相続人が解除するのは問題ありませんが、相続配分が決まっていない段階で故人のデジタル遺品のロックを解除する際には、相続人全員の同意が必要になるので注意しましょう。
デジタル遺品内のデータを確認する
デジタル機器のロックを解除することができたら、中に入っているデータを確認しましょう。
その際、特にチェックすべき情報を以下にまとめました。
- SNSアカウントの情報
- ネット金融・口座の情報
- 有料サービス・アプリの情報
故人の財産に関係する情報は、相続漏れにならないように十分チェックしましょう。
また、有料サービスやアプリがあった場合は契約者が亡くなってしまっても、遺族が解約するまで料金が発生し続けてしまうので、早めに解約するようにしましょう。
デジタル遺品内のデータを完全に削除する
デジタル遺品内のデータを確認し終わったら、内部のデータを完全に削除しましょう。
「アプリやファイルを削除すれば大丈夫」と認識している人が多いですが、アプリやファイルだけを削除しただけでは機器内にデータが残ったままになってしまい、トラブルが発生したり、犯罪に悪用されてしまう恐れがあります。
故人と生前交流があった人の中には、亡くなったことを知らない人がいる可能性があります。
SNSアカウントを削除する際には、故人が亡くなってしまったことの報告やこれまでの感謝の意を伝え、一定期間時間を空けてから削除するのがいいでしょう。
デジタル機器の処分
機器内のデータを完全に削除したら、デジタル機器の処分をします。デジタル機器を売却する場合は、実績があり、信頼できる業者を選んで売却しましょう。
デジタル機器の買取業者の中にはデータを完全に削除してくれるサービスがある場合があります。自分で削除しただけでは不安な場合は、サービスを利用するのもいいでしょう。
また、パソコンは資源有効利用促進法の対象品に含まれているため、不燃ゴミや粗大ゴミとして捨てることはできません。
引用先:経済産業省公式ホームページより
パソコンを処分する手段として以下の方法が考えられます。
- パソコンメーカーに問い合わせて処分を依頼する
- 環境省・経済産業省の認定を受けた「認定事業者」に処分を依頼する
また、平成15年(2003年)10月以降に販売された家庭向けパソコンにはPCリサイクルマークが貼付されている場合があり、このマークの付いたパソコンは、処分する際に新たな料金を負担することなく処分することが可能です。

引用先:パソコン3R推進協会公式ホームページより
スマートフォンは、小型家電リサイクル法により、以下の方法が考えられます。
引用先:経済産業省PDFファイルより
- 自治体が設置している回収BOXに捨てる
- 携帯ショップに引き取ってもらう
- 環境省・経済産業省の認定を受けた「認定事業者」に処分を依頼する
デジタル機器の処分方法は種類によって異なりますので、処分前に必ず確認しましょう。
まとめ
故人のスマートフォンやパソコンなどのデジタル遺品は、内部に個人情報やネット金融など、相続時に関わっていたり、犯罪に悪用されるなど取り扱いに注意しなければならない情報が保管されています。
適切な手順で処分しないと、残存していたデータから情報が漏洩してしまったり、故人が契約していた定額サービス料金が発生し続けてしまったり、相続漏れなどの遺族間でのトラブルが発生してしまうリスクがあるので注意が必要です。
早めに処分するのがいいのですが、デジタル機器のロック解除ができず、大幅に時間がかかってしまうことがあります。ロック解除を試みて、故人や知人の誕生日など、可能性のある番号を片っ端から入力し何度も失敗すると端末がロックされ、内部のデータがすべて消えてしまう…といったトラブルが発生するリスクがあり、大変危険です。
こういったトラブルを避けるためにも、デジタル遺品の生前整理が重要となります。デジタル機器のロック解除方法や、亡くなった後の遺品の取り扱いについて、遺品整理を行う人に伝えられるように話し合っておきましょう。
また、デジタル遺品の処分に困ったら、私たちのような業者に依頼をおすすめいたします。
費用はかかってしまいますが、ロック解除だけでなく、故人がネット上で契約していた有料サービスの確認を行ってくれるので、手間と時間をかけずにデジタル遺品整理をすることができます。
生前整理の方法は以下の記事で詳しく解説しております。参考になさってくださいね!