現代、社会問題のひとつとして取り上げられている「孤独死」ですが、孤独死となってしまう状況はさることながら、その後の処理についても重大な問題となることがあります。
特に大きな問題が「害虫」です。
死後、時間が経てば経つほど害虫の発生率は高くなり、状況によっては近隣住民に迷惑がかかることもあるのです。
本記事では孤独死現場における害虫はどこから、どのようにして発生するのか、また具体的な対処法や注意点についても詳しく解説していきます。
目次
なぜ孤独死現場で害虫が発生するの?
孤独死現場で害虫が発生する原因は、「遺体の発見までに長期間かかるから」です。
家族と一緒に暮らしている人や病院で亡くなった場合は、当然、死後すぐに発見されるとともに遺体や遺品の処理へと進みます。
しかし、孤独死となってしまう人は、一人暮らしをしており、さらには近隣住民との付き合いもまったくないというようなケースも多くみられます。
仕事や趣味に勤しんでいる年代であれば、職場や趣味の場に姿を現さないことにより第三者が異変に気づくことができるでしょう。
ところが、仕事を退職していたり、趣味や人付き合いもなく引きこもっているような人の場合、誰からも発見されず数日から数週間といった長い期間が過ぎてしまうことになります。
一定以上の期間が経過すると、害虫が遺体に大量に卵を産みつけ、それが孵化することで目を覆いたくなるような光景となってしまうのです。
特に夏場や湿度が高い部屋では、害虫が孵化しやすい環境となってしまうため、害虫の発生数は非常に多くなるでしょう。
ハエの場合、一生のうちに生む卵の数は500個ともいわれているため、非常に生殖能力が高いことがわかります。ハエの卵から成虫までのサイクルは、気温や湿度などの環境によって異なりますが、一般的には以下のようになります。
卵
- ハエは1回に約100~150個の卵を産みます。
- 卵は白く細長い楕円形で、長さは約1mmです。
- 卵は約1日で孵化します。
幼虫
- 孵化した幼虫は、ウジ虫と呼ばれています。
- ウジ虫は生ゴミや動物の糞などを食べて成長します。
- ウジ虫は脱皮をしながら、約1週間で成虫になります。
蛹
- 成虫になる前に、ウジ虫は蛹になります。
- 蛹は茶色い楕円形で、長さは約5mmです。
- 蛹は約5日で羽化します。
成虫
- 羽化した成虫は、すぐに交尾して産卵します。
- 成虫の寿命は約1ヶ月です。
害虫は死骸や排泄物、腐った食品に対して集まってくるため、死臭が出る前に遺体の処理を行うのがもっとも効果的なのです。 しかしながら、孤独死を早期に発見することは困難で、実際には家の外にまで死臭が漂ってきたり、大量の害虫が家の周りを飛び交うようになってからでないと発見できないというのが現状です。
孤独死現場で発生する害虫の種類
孤独死現場ではあらゆる害虫が発生しやすいといわれています。
具体的な害虫の種類を挙げると以下のとおりです。
- ウジ虫
- ハエ
- チャタテムシ
- ヒメマルカツオブシムシ
- ゴキブリ
- シデムシ
ウジ虫
ウジ虫とはハエの幼虫のことをいい、主に排泄物や腐った食品に湧きます。
遺体からウジが湧いてくるというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実際には外から死臭に誘われて集まってくるという方が正しいでしょう。
また、厄介なことにウジ虫には市販の殺虫剤は効かず、体が小さいため畳の裏やタンスの中など狭い隙間に入り込む習性があります。
したがって、目に見えるウジ虫だけを除去しても、見えないところに入り込んでいるウジ虫を見逃してしまい、エンドレスに大量発生となるというケースにはかなり注意が必要です。
ウジ虫が大量に発生している状況はかなり清掃や原状回復が困難であるため、素人が手をつけるのはおすすめしません。
ハエ
ハエはウジ虫の成虫であり、ウジ虫の状態から約2週間という短い期間で成虫になります。
ご存知の方も多いと思いますが、ハエは動物の死骸に卵を海つける習性があります。
これは人間も例外ではなく、遺体の死臭に誘われてハエが外から入ってきて卵を産みつけることにより、ウジ虫、ハエが大量発生してしまいます。 「家の中を締め切っていればハエが入る隙間はないのでは?」と思われるかもしれませんが、ほんのわずかな隙間でも侵入することができるため、窓やドアを閉め切っていても器用に入り込み、遺体に卵を産み付けることができるのです。
チャタテムシ
チャタテムシはカビを食べて繁殖するのが特徴で、清掃や換気が行き届いていない孤独死現場でもよく見られる害虫です。
ヒメマルカツオブシムシ
ヒメマルカツオブシムシはその名のとおり、かつお節や穀物、羊毛やシルクといった素材を好む害虫です。 長く使用していない衣類やクローゼットの中に見られることが多いです。
ゴキブリ
害虫といえばゴキブリを真っ先にイメージされる方も多いのではないでしょうか。
通気性が悪い場所や湿度が高い場所、不潔な場所を好むうえ、ハエと同じくわずかな隙間からも侵入できます。
どんなものでも食べる雑食者であるため、遺体から出た臭い、体液に集まってきます。
シデムシ
シデムシとは漢字で「死出虫」と書き、ウジ虫や死肉を食べます。
死体があると出てくる虫であるという特徴から、このような名前が付けられました。
孤独死現場で発生した害虫には特殊清掃業者がおすすめ
孤独死現場で発生した害虫をそのままにしておくと以下のような被害が起こります。
- 病原菌を運んで健康被害を受ける
- ご遺体にとまった害虫が体液を広げてしまう
- 近隣住民に多大な迷惑がかかる
- 部屋の復旧に費用と時間がかかる
遺体が発見されるまでの時間が長ければ長いほど、清掃や原状回復の時間も比例して長くかかることが多いです。
遺体を発見して日にちが浅い場合は「素人でも作業ができるのではないか」と思われるかもしれませんが、先述したとおりウジ虫には市販の殺虫剤は効きません。更に畳の裏側や壁紙の裏にまで入り込んでいく厄介者なのです。
1匹でも残した状態にしておくとハエに成長し、また卵を産みつけてしまうという悪循環になってしまうため、1匹残らず処理する必要があります。
どの害虫も人間の目には見えないわずかな隙間にも入り込んでしまうという特性を持っているからこそ、プロの力を借りて殺虫作業と清掃・消毒作業を行うのがもっとも確実で安全な方法です。
特殊清掃業者に依頼すれば、害虫が寄り付く原因となる死臭を完全に除去でき、あらゆるタイプの害虫の駆除や予防が可能です。 「1匹逃したばかりに、近隣で害虫が大量発生してしまった」とならないためにも、確実に作業を行なってもらうのが好ましいでしょう。
孤独死現場で発生した害虫への対処法
孤独死現場で発生した害虫への対処法は、プロである特殊清掃業者に依頼するのがもっとも確実と説明しましたが、具体的にはどのようにして作業が進められるのでしょうか。
以下のステップを順番に解説していきます。
- 部屋を閉め切って害虫が外に出ないようにする
- 専用の殺虫剤を散布して大まかに害虫を退治する
- 汚染箇所をひとつひとつ清掃する
- 必要があれば不用品も処分する
- 脱臭機を使って消臭する
部屋を閉め切って害虫が外に出ないようにする
基本的に近隣の迷惑にならないために、特殊清掃時は害虫が外に出ないように窓やドアを閉め切って作業します。
また、換気扇をつけてしまうと他の部屋や家の外に死臭を充満させてしまい、さらに害虫をおびき寄せてしまうため、原則、換気扇もつけずに作業をおこないます。
専用の殺虫剤を散布して大まかに害虫を退治する
ゴキブリやハエには市販の殺虫剤でも効果がありますが、ウジ虫には効果がないため、プロが使う専用の殺虫剤を使って大まかに害虫を退治します。
大量に飛び回るハエや床を這っているウジ虫、ゴキブリなどどのような種類の害虫に対しても効果のある殺虫剤を散布することにより、大まかではありますがある程度害虫を退治することができます。
この時に使う殺虫剤はガス状のものであるため、狭い場所や細かい隙間などにも効果があり、間に入り込んだウジ虫にも効果があります。
体液が広がった箇所をひとつひとつ清掃する
遺体が長い期間放置されていると、死臭が発生するとともに体液も流れ出し、床や畳にシミを作ってしまう場合があります。
長期間放置されていればいるほどシミが取れにくくなっているため、ご遺体跡を見つけたら作業員が入室しひとつひとつ丁寧に清掃をおこないます。
ご遺体跡をきっちりと清掃・消臭しなければ、死臭や体液が残ったままとなり再び害虫の温床となってしまうため、細かい場所であっても丁寧に作業をおこないます。
必要があれば不用品も処分する
家財や遺品に関しても死臭が染み付いてしまい、清掃・消毒をしても十分に取れない場合もあります。
遺族がそれでも手元に残したいという場合にはできるところまで綺麗にしてお返ししますが、その他の不用品に関しては供養をしたうえで処分します。
不用品を処分することにより染み付いた死臭を取り除くことができ、部屋も一気に広くなります。
広くなった室内に再度殺虫剤を散布し、残っている害虫を退治します。
ここまで来ると死臭、害虫ともにほとんど目立たなくなり、孤独死現場であったとは思えないくらい見違える状態となります。
脱臭機を使って消臭する
最後の仕上げとしてオゾン脱臭機を使って室内の臭いを完全に取り除きます。 このようなステップに沿って作業をおこない、原状回復が完了します。
孤独死現場の害虫駆除で特殊清掃業者を選ぶ際のポイント
孤独死現場において、長期間遺体が放置されていた場合「本当に原状回復できるの?」と思われるくらいのひどい状態となっていることもあります。
そのような場合には間違いなく特殊清掃業者に依頼すべきですが、特殊清掃業者といっても優良な業者もいれば悪質な業者もいます。
こちらでは特殊清掃業者を選ぶ際のポイントについて詳しくご紹介しますので、これから依頼を考えている方はぜひ参考にしてみてください。
料金体系・見積もりが明瞭
特殊清掃を初めて依頼する方にとって、「どれくらいの費用がかかるのか」という点についてはもっとも不安に感じられるのではないでしょうか。
料金体系や見積もりが明瞭であれば、「どの作業でいくらかかるのか」ということが一目でわかるため安心ですね。
特殊清掃の依頼は一生のうちでそう何回もあるものではありませんし、「相場がわからない」という方も多いのではないでしょうか。
清掃・消毒が必要な場所の広さや汚れ具合、害虫の発生数によって料金は大きく変わるため一概にはいえませんが、100,000円から250,000円ほどが一般的な相場です。
しかし、長期間遺体が放置されている状況であった場合は、さらに高い金額がかかる場合がありますので、現地をチェックしたうえで明瞭な料金提示をおこなってくれる業者が好ましいでしょう。
近隣への配慮がある
「特殊清掃を依頼した」という事実は、あまり周りに知られたくないものです。
なるべく周りに気づかれないようにスピーディーに作業を行なったり、車両が邪魔にならないようにするなど、近隣への配慮ができる業者だと安心ですね。
特殊清掃を依頼する背景には孤独死や自死、ゴミ屋敷など他人に知られたくない事情がある場合がほとんどです。
そのような事情に配慮して依頼者に寄り添ってくれる業者は高く評価されています。
確かな技術力と実績を持っている
特殊清掃はその名のとおり「一般清掃」とはまったく違うレベルの清掃です。
したがって、ひどい汚れや死臭、大量の害虫を完全に除去し、再び発生しないようにする確かな技術が求められます。
特殊清掃に関する知識や技術が乏しい業者に依頼してしまうと、清掃・消毒が不十分となり、作業をおこなったにもかかわらず、また問題が発生することになります。
技術力は実際に依頼してみないと判断できないのが正直なところですが、作業実績が豊富で事例を掲載しているような業者だと安心できます。
リフォームや部分解体に対応してくれる
遺体が長期間放置されていた場合、いくら丁寧に作業をおこなっても死臭を完璧に取り除けなかったり、害虫を駆除しきれないといった事態が起こることもあります。
そのような場合、必要に応じてリフォームや部分解体ができる特殊清掃業者に依頼すると、再度別の業者に依頼する手間が省けます。
リフォームや解体をするには「解体業許可」が必要になりますが、多くの特殊清掃業者がこの許可を保有していません。
例えば、床下まで死臭や害虫が見受けられた場合は、床の解体をおこなって作業・消臭をおこなうことが好ましいですが、解体業許可を持っていなければそこまで徹底した作業はできないことになります。
また、万が一どれだけ作業を行なってもどうしようもないといった場合には、依頼者の希望によってリフォームや解体といった選択肢が選ばれることもあります。
解体業許可を保有していれば、特殊清掃から始まり、リフォームや解体まで一貫して依頼してもらえるため、依頼者の負担も少なくなるでしょう。
「解体業許可がなければ完全な特殊清掃はできない」というわけではありませんが、解体業許可を保有している業者の方がより効率良く確実に作業を進めることができます。
まとめ|害虫はわずかな隙間から入ってくる!できるだけ早く原状回復を
ウジ虫やハエ、ゴキブリなど孤独死現場で見られる害虫は、死臭に釣られてわずかな隙間から入ってきます。
孤独死の場合、遺体が発見されるのは2週間から1ヶ月ほどとも言われているため、発見される頃には強烈な死臭と害虫が発生しているでしょう。
そのような状態をクリーンな状態に現状回復するには、確かな技術力や資格を持った特殊清掃業者に依頼するのが一番です。
特殊清掃業者の中には「悪質」と呼ばれる業者も多く存在していますので、状態が悪ければ悪いほど業者選びは慎重におこなうようにしてください。