「特殊清掃」この言葉に聞き覚えはありますか?
特殊清掃とは多くの人が目を背けたくなるような孤独死や自殺など、人の死によって残された跡を清掃し何事もなかったかのように元に戻す仕事のことです。
人が亡くなり長期間発見されなかった現場には、ウジ虫にハエ、死臭ともいわれる腐敗臭や体液があり仕事の内容は決して簡単とはいえず、誰にでも出来るものではありません。
特殊清掃会社を経営していると、「なんでその仕事をえらんだの?」「精神的にきつかったりしないの?」という質問を多くいただきます。
数々の孤独死現場や自殺、事故現場と向き合ってきた私なりの特殊清掃員としての心理的負担について今回は書かせていただこうかと思います。
※この記事は、私の個人的な体験に基づいています。すべての特殊清掃スタッフが同じような経験をしているわけではありません。
※この記事は、あくまでも情報提供を目的としています。特殊清掃業への就職を検討している方は、必ず就職する会社に相談してみてください。
目次
特殊清掃という仕事
特殊清掃は、孤独死や殺人事件、自殺など、故人の死後長期間誰にも知られることなく時間が経過してしまった場所を清掃、復旧、消臭する仕事です。血液や体液、腐敗臭、害虫など、表現の仕方は悪くなってしまいますが、想像を絶する汚れと悪臭に立ち向かう必要がある場合が大半です。
特殊清掃とは、単に掃除をするだけでなく、以下のような様々な業務を行います。
※今回は孤独死や自殺現場の特殊清掃に絞って解説させていただきます。
- 体液の洗浄
- 体液や臭いのついた家財道具の整理(遺品整理)
- 空間全体の消毒作業
- 必要に応じて内装解体作業、現状回復工事
- 室内の消臭作業
- ご遺族への対応
- 不動産会社への対応
特殊清掃は、専門的な知識と技術が必要となるため、誰でもできる仕事ではありません。言葉を変えると孤独死現場の完全消臭することは、科学的な知識が必要となるため全国的に見ても数社しかないのが現状です。日々、消臭や消毒に関して薬剤や機材の比較対象実験をおこなったりデータ取りをし、現場で役立つよう地味な実験や研究をしています。
特殊清掃員になる理由
特殊清掃会社で働く理由は人それぞれですが、弊社にいるスタッフは以下のような理由でこの仕事を選んでいます。
- 誰かの役に立ちたい
- 社会的な問題と向き合い広めていきたい
- 高度なスキルを身につけたい
- 自分にしかできないことを仕事にしたい
特殊清掃は、決して楽な仕事ではありません。しかし、人の役に立つという強い使命感と、目標が達成したときのやりがいを感じられる仕事であるのもまた事実です。
特殊清掃の仕事内容
特殊清掃の仕事内容は、死因や状況によって様々です。以下は、特殊清掃会社のスタッフとして働いた場合の仕事内容の一部です。
- 電話対応 依頼者からのヒヤリングを行う
- 現地調査 実際に現場に向かい状況を確認する
- 打合せ ご遺族や不動産会社と必要な作業範囲について説明や打合せを行う
- 作業 特殊清掃や遺品整理、必要に応じて改修工事を行う
- 処分 一般廃棄物の処分、または寄付
- 最終確認 臭気測定を行い臭い戻りの最終確認、お引渡し
- 報告書 必要に応じて写真付きの作業報告書を作成
その他にも、お見積書や請求書の発行やお立合いができなかった遺族へ貴重品の配送手配や場合により不動産売却や解体作業、管理会社へのお引渡し代行などやることは現場作業以外にも多いのです。
このHPの更新やSNSを使った情報発信も業務内容の一環です。
また、特殊清掃という仕事柄、急なお見積りや緊急対応などもあり、私に至っては24時間休日も関係なく対応しているのが現状です。※スタッフはしっかり休日ありますよ。
特殊清掃の心理的精神的な負担
特殊清掃スタッフは、死の現場を清掃するという、精神的に非常に負担の大きい仕事です。人が亡くなった後の臭いがどうしても我慢できないという人もなかにいるでしょう。幸い私をはじめ弊社のスタッフはそこまでの拒否感はなく作業ができていますが、そうはいってもけっして慣れるものではありません。
社内の環境やコミュニケーションを円滑にし、精神的な負担は出来るだけ減らそうと努めていますが、私の中で時に辛いと感じる瞬間があるのも事実です。個人的には以下の現場が連続して続くと気が滅入ってしまうことがあります。
- 自分の子供と同世代の子の自殺現場の特殊清掃
- 若い世代(20‐30代)の孤独死現場の特殊清掃
- あまりにも突発的な自殺現場の特殊清掃
- 生活の困窮が分かりすぎる餓死現場の特殊清掃
特殊清掃をメインとしていますから、人の死に関わることは仕事として全く問題ないのですが、若い世代の自殺や孤独死は親御さんの気持ちを思うととても辛くなります。かける言葉がうまく見つからないのが大変心苦しい限りです。
また、日常生活の中で突発的に自殺してしまったのだろうと感じる現場も考えてしまうことがあります。吸いかけのたばこ、鍋に作ったままのインスタントラーメン、まわしたままの洗濯機、翌週の旅行の約束が書かれたカレンダー等ほんの少し前まではいつものように過ごしていたであろうと、どうしても遺品整理を行うなかで分かってしまう情報というものがあり、決して答えの出ることがない【なんで、どうして・・】という思いが頭を離れなくなることがあります。
また、令和の時代に冷蔵庫や洗濯機、布団さえない、もっといえば室内に当たり前にある日用品が一切ない部屋の中で、高齢者や若者が餓死してしまう、そういった孤独死現場もとても心が痛くなります。
現場の状況から何を思い、何を感じるかは人それぞれかとは思いますので、あくまでも私個人的なものです。特殊清掃が辛いというよりは、生前の故人の暮らしぶりや思いが感じ取れる現場には精神的な辛さを感じることがあります。
特殊清掃現場の心霊的な現象
特殊清掃現場では、人の死という悲しい出来事が起こった場所の清掃するため、心霊的な現象が起こるのではないかと聞かれることが多いです。さらには怖くないの?呪われないの?といったこともよく聞かれます。
答えとしては「NO」です。これまで多くの孤独死や自殺現場の特殊清掃を行ってきましたが、心霊現象は一度も経験したことがありません。皆さんはご自身の両親や兄弟、親しい人が亡くなった際、怖いや呪われると感じたことはありますか?私たちの仕事はご遺体のあった場所の清掃を行いますが、決して故人の尊厳を守らずに作業をしているわけではありません。
悪いことをしていたら話は違ってくるかもしれませんが、「お疲れ様でした」の気持ちを込め、最期のお片付けをしているので呪われることはないと思っております。
そういった面での、心理的な負担は私をはじめ、スタッフも全くないというのが本音です。
特殊清掃を通じて知ったこと
この仕事を始める前は「孤独死」や「自殺」がこんなに頻繁におきているものとは知りませんでした。
先ほど書かせていただいたように、この時代にこの日本に餓死してしまう人がいるということも、この仕事についていなければ知ることがなかったことでしょう。
私が小さい頃は近所の人(学校の登下校中にすれ違う人)には元気に挨拶をしなさいと教育された時代でした。
だからなのか近所のおばちゃんやおじちゃんが、下校中に飴玉や暑い日にはアイス、庭でなったミカンなどをくれたりすることもありました。田舎の良いところです(笑)
公園で雑草の花を花束のようにし、近所のおばちゃんにあげたらコップに入れて飾ってくれたり、よもぎを積んでいったら草餅にしてくれたりと子供とお年寄りとの交流が今より全然多かったように感じます。
時代の変化なんでしょうね、私自身が子育てをしている現在は、知らない人と話をしてはいけないとなっていました。地域の防犯メールから届く不審者情報も「下校中に知らない高齢男性から“部活は何やってるの?暑いから早く帰りなさい”」と言われたなんて内容のこともあり驚くこともあります。地元地域でさえ、もっといったら数軒隣の家の人がどんな人なのか全く分からないといった、孤立しやすい状況は今のこの環境も原因の一つでしょう。突然の大雨のなか、小学校低学年の子が雨に打たれながら傘も持たずに歩いていたら、車で送ってあげたくなりますが不審者にならないか・・と不安がよぎります。
生活の困窮もまた同様です。以前20代の孤独死現場の特殊清掃を行った際、冷蔵庫の中には綺麗に中身のなくなったマヨネーズの空容器と岩塩しかない現場がありました。食品類は一切なく、ライフラインは止められ死因は餓死だったと聞いています。同じように、ワンルームの部屋のなか、薄い敷布団と掛布団代わりにしていたであろう段ボール1枚しかない部屋もありました。
これまで日本は豊かな国だと思っていた私にとっては、とても衝撃的な現場となりました。
これらすべてがこの特殊清掃といった仕事を初めて知ったことなのです。
これを聞いてみなさんはどう思いますか?
生活困窮者が今の日本に多くいるということを現場から学び、生活環境を少しでも整えれることができれば孤独死が減らせるのではないかと、生活困窮者への物資寄付などを弊社で始めるきっかけとなった出来事でした。
それでもこの特殊清掃という仕事を続ける理由
故人の人生と向き合い故人の尊厳を守るということの重要性
特殊清掃の仕事は、単に故人の亡き跡の清掃だけではないと思っています。
故人の尊厳を守ることも仕事の一環です。
ご遺品の中には、離れて暮らすご家族に見られたくない物ももちろんあります。またそれらはご家族の思う故人のイメージとはかけ離れている場合もあります。そういった物は私たちの判断でそっとご家族には見えないようしまわせていただく事があります。故人の尊厳を守ることは遺族の心の負担を少しでも軽減する役割を担っているのではないかと考えているからです。
人の温かさに触れる
片づけ中に、故人が生前大切にしていたものや、家族との思い出の品や写真、手紙を見つけることがあります。そのような瞬間、家族の絆を改めて感じ、この仕事に携わってよかったと心から思います。
また、作業をしている中でご近所の方がお花を手向けに来てくださったり、生前の故人との思い出話を聞かせてくれたりと、人とのつながりの温かさや故人の生前の様子や人柄を感じることがあり人のやさしさや温かさに触れる機会が他の仕事より多いのではないかと思います。
孤独死現場ではご家族が離れて暮らしていることが多く、一切お会いしないままお引渡しすることも珍しくはないのですが(写真や動画でご報告)、思い出のお品や私たちの判断で確認していただいてからと思った物を送らせていただいたときの「こんなものを取っていたなんて知らなかった。」と記憶になかった親から子への愛情を感じた時の、電話越しに涙され喜んでくださっているときは自分のことのようにうれしく感じます。
孤独死を未然に防ぐ
たくさんの孤独死現場を見てきた私が、孤独死を防ぐための注意喚起をしているとこんなことを言われます。「孤独死が減ったら仕事が減るんじゃないの?」と。一般的に考えたらそう思ってしまうのも致し方がないと思います。高齢化社会の日本では、自宅で亡くなってしまう方がいることは今後もあるでしょう。在宅でお亡くなりになられることが問題なのではなく、早期発見が重要なのです。
たとえ自宅で誰にも見とれれず亡くなったとしても、ご遺体が腐敗する前に発見されたらご家族は故人の顔を見てお別れすることができるのです。できれば3日以内に発見となるよう地域で見守りができたら理想的ではないでしょうか。
凄惨な現場をたくさん見てきている私だからこそ、伝えられることがあるはずだと最近は、孤独死予防に関してのセミナーやSNSを通じて注意喚起を続けております。これも私が特殊清掃を続ける理由の一つでしょう。
特殊清掃員という仕事に対する私の想い
特殊清掃員は、どちらかといえば社会の影で働く存在です。
ですが、私たちの仕事は、社会にとって必要不可欠なものだと自負しております。私は、この仕事を通じて、人の命の尊さを改めて認識し、社会に貢献したいと強く思っています。
そして、特殊清掃という仕事に対する社会の理解を深め、予防策を広めると同時に、孤独死に対する偏見をなくすために、これからも積極的に情報発信していきたいと考えております。孤独死と言われる最期かもしれませんが、生まれた瞬間から一生涯孤独だったひとなんていませんからね。可能であれば孤独死という名称も在宅死に変えていけたらご家族の気持ちは違うのではないでしょうか。
そして、私たちのような特殊清掃を行う会社があることで、ご家族や遺族の精神的な負担が少しでも軽減し、孤独死させてしまったとご自身を責めずに済むようなお手伝いが出来たらと考えております。
また、特殊清掃=完全消臭というプライドを持ち、現状に満足することなく向上心を持っていかなければいけないと感じております。
最期に
ここまで長い文章をお読みいただきありがとうございます。
今回の記事を読み、特殊清掃という仕事について、どのように感じましたか?
現在の日本はこのグラフから分かるように団塊の世代、団塊ジュニアが突出していることが分かります。高齢化社会の日本で孤独死を減らすためには、各自が意識し気を付けていく必要があります。また、本人だけでなく周りの力もどうしても必要になってくるでしょう。
特殊清掃は他人事そう考える人は多いと思いますが、私たちの活動を通じておひとりおひとりが自分事として意識していってくれたら幸いです。影の仕事、特殊清掃会社を経営し自らも現場に出ている私からの願いです。
今回は特殊清掃員の心理的負担ということで私個人的な気持ちを書かせていただきました。これからも、特殊清掃員として、今できる最大限のことを誠心誠意仕事に取り組んでまいります。
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