皆さんは「多頭飼育崩壊」という言葉を知っていますか?
多頭飼育崩壊とは、飼い主が適切な飼育管理を怠り、飼育頭数が増えすぎて適切な飼育が困難になっている状態を指します。劣悪な環境で生活を強いられた動物たちは、飢餓、病気、虐待など様々な苦痛に直面し、悪臭や害虫の発生など、衛生面でも深刻な問題を引き起こしている状況のことです。
特殊清掃作業の中で、私はこれまで多くの多頭飼育崩壊現場を目の当たりにしてきました。そこには、糞尿まみれの悪臭漂う部屋で、白骨化したペットややせ細り飢えと病気、そして人間という存在に震える動物たちの姿、また反対に人を珍しいもののように近寄ってくるそんな姿がありました。
言葉を話すことができない小さな命に対して私たちにはなにができるのでしょか。
この記事では、私が実際に目にした多頭飼育崩壊現場の実態を、実際の写真と共にリアルに紹介します。この記事を通して、多頭飼育崩壊の実態を知り、ペットを家族として迎える事について考えていただければ幸いです。
目次
多頭飼育崩壊とは?
多頭飼育崩壊とは、飼い主が適切な飼育管理を放棄した結果、動物たちが悲惨な状況に置かれてしまうという問題です。定義としては一般的に、犬や猫を10頭以上飼育している場合、行政機関は「多頭飼育」と認識します。しかし、飼育頭数に関わらず、以下のいずれかに該当するケースも多頭飼育崩壊とみなされます。
- 飼育頭数が過剰:飼い主が適切な飼育頭数を維持できず、動物たちが過密な環境で飼育されている。
- 劣悪な飼育環境:動物たちが十分な餌や水、排せつ管理、医療ケアを受けられず、不衛生な環境で飼育されている。
- 動物の繁殖管理の不行き届き:去勢・避妊手術を行わず、動物たちが無秩序に繁殖し、頭数が急増している。
多頭飼育崩壊は、動物だけでなく、飼い主にとっても深刻な問題です。
- 経済的な負担:過剰な飼育頭数によって、餌代やペットシーツ代、医療費などの経済的な負担が大きくなる。
- 健康被害:動物たちの糞尿による悪臭や抜け毛等の衛生状態の悪化によって、飼い主自身が健康被害を受ける可能性がある。
- 近隣トラブル:悪臭や騒音、脱走などの危険性の問題によって、近隣住民とのトラブルが発生する可能性がある。
多頭飼育崩壊とゴミ屋敷の関係
密接に関係する二つの問題
多頭飼育崩壊とゴミ屋敷は、一見異なる問題のように見えますが、実は密接な関係があります。どちらも、動物や人の生活環境が極端に悪くなり、日常生活のみならず健康や安全さえ危ぶまれる状態を指します。
密接な関係:悪循環を生み出す要因
多頭飼育崩壊とゴミ屋敷は、互いに悪循環を生み出す要因となります。
- 動物の世話に追われて、ゴミ屋敷化する
※排せつ物の処理がおろそかになる、ペットがいたずらで散らかす - ゴミ屋敷の環境が、動物の健康状態悪化を招く
- 悪臭や害虫によって、孤立が深まる
可愛いから、癒されるからといった理由で飼い始めたペットがいつしか散らかす汚す存在になってしまい負の連鎖となってしまうことが多いように感じます。
多頭飼育崩壊の原因
多頭飼育崩壊の原因は様々なので一言でまとめるのは難しいですが、主な要因として以下の点が挙げられます。
- 知識不足:動物の正しい飼育方法を知らず、適切な管理を行わない。
- 経済的な困窮:経済的な理由で、十分な餌や医療ケアを提供できない。
- 精神的な問題:動物への執着や依存心が強く、適切な判断を下せない。
- 孤立:周囲の人との交流が少なく、問題を抱え込みやすい。
多頭飼育崩壊の現状
環境省「令和元年度 社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業」
多頭飼育崩壊は、全国各地で発生しており、近年増加傾向にあります。
環境省の調査によると、2020年度に全国の動物愛護団体等に相談があった多頭飼育崩壊案件は、1,441件にのぼります。
多頭飼育崩壊は、動物たちの命を奪うだけでなく、飼い主や周囲の人々にも様々な問題を引き起こす深刻な問題です。
特殊清掃員が見た、多頭飼育崩壊現場の悲惨な実態
私は特殊清掃員として、これまで多くの多頭飼育崩壊現場を目の当たりにしてきました。
そこには、言葉では言い表せないほどの悲惨な光景が広がっていました。
悪臭と汚れにまみれた部屋
床は糞尿でいびつに盛り上がり湿った状態、壁や天井にはいたるところに動物たちの爪痕や毛がびっしり。尿で床がぶかぶかと抜けている箇所もあります。玄関の扉を開ける前から強烈な悪臭が鼻を突き、思わず目を覆いたくなるような光景です。多頭飼育崩壊の現場では、全ての部屋がペットの排泄物または排泄物による悪臭が広がっているのです。
衰弱しきった動物たちの姿
これまで見てきた飼育崩壊現場のペットたちは、狭い空間に閉じ込められていたり、室内なのに短いリードに繋がれていたりするケースがありました。頭数のわりに十分な餌や水を与えられず、ガリガリに痩せ細ったり、毛が抜けてしまった犬や猫たち。不衛生な飼育環境から目ヤニで目が見えていない子や明らかに皮膚病にかかっている子や缶詰の蓋が足に刺さったまま怪我で苦しんでいる子も見てきました。
また、見積で室内に入った私におびえて、大きな体で(大型犬の多頭飼育崩壊現場)プルプルと震えながら頭だけ隠れる子、かまってもらえると無邪気に飛びついてくる子犬たち、シャーと威嚇する猫、動くことさえできない弱り切った子たち。
特殊清掃という仕事を始めるまでは想像もしていなかった光景がこの仕事を始めてから珍しくないものだということを知りました。
愛情がなくなってしまう飼い主さんもいる
ペットを家族ではなく“物”のように扱う飼い主さんもいるのもまた事実です。
「もう大きくなって可愛くないから処分してくれ」「殺処分ごとお願いしたい」
そんな言葉もよく聞きます。
室内でペットが亡くなっていることさえ知らずにひっそりと箪笥の裏で白骨化していたり、ごみ袋に複数の亡骸をまとめ入れそのまま放置したり、避妊手術をさせず外に出し好き勝手に繁殖させ続けたり命とはなんなのかと考えさせられ、弊社で動物の保護活動支援を行うしかないと思うきっかけでもありました。
私が実際に経験した多頭飼育崩壊現場の具体的な事例です。
1. 大型犬だらけの多頭飼育崩壊現場
警察、行政、保護団体が介入していた大型犬の多頭飼育崩壊現場。飼い主さんは犬たちを可愛がっていると言い張るなか、近隣住民が飼育崩壊現場となっている家に向け24時間カメラを回している異様な光景でした。室内には秋田犬、セントバーナードなど大型犬が多数。室内はどの部屋も人が住める状態ではなく、飼い主さんは別の場所で暮らしている状況です。ペットはなでることだけが可愛がることではないと痛感するとともに、そんな状況の中でも何もわからない生後数か月の子犬は元気に飛びついてくる光景が悲しくもある現場でした。こちらの犬たちは愛護団体様のご協力もあり無事里親に恵まれたとのちに報告を受けました。
2. 野良猫と飼い猫の区別がつかなくなった多頭飼育崩壊現場
野良猫に餌付けをしていたらいつのまにか野良猫が増えてしまい室内で我が物顔で暮らし始めたそう。飼い猫ではないとはいえ、室内で繁殖を繰り返しベランダ側の割れた窓から多数の猫が自由に室内を行き来していました。ペット飼育不可の団地だったため、他の家のベランダにも自由に行き来し排泄物や毛の問題から近隣住民や管理会社との関係は悪化していました。飼育不可物件、さらには元が野良猫だったこともあり処分してほしいと頼まれました。今この猫たちは弊社スタッフ宅と里親さんのもとで暮らしています。
3. 高齢女性が保護猫を飼育管理できなくなってしまった
大きな戸建て住宅が、猫だらけになってっしまったという事例。飼い主さんが長期入院で発覚したこの住宅の状況は高齢者とペット飼育という現代社会の問題ともいえる状況ではないでしょうか。もとは保護猫を飼育していたようですが、加齢とともに猫の飼育管理が十分に行えなくなり気付けば猫が増えてしまい、排せつ処理も困難になり飼育環境の劣悪さから病気になってしまったりと亡くなってしまう猫もいて数の多さから埋葬しきれずに埋葬するかわりに衣装ケース遺体をにしまっておいたというもの。一見すると外からはなんの問題もないように見える戸建て住宅でした。こちらはあまりの猫の数に弊社だけでは対応しきれずお付き合いのある愛護団体様と協力をさせていただきました。飼い主が退院して来る日までに住環境を整え療養していただいたというもの。
これらの現場は、ほんの一例です。
多頭飼育崩壊は罪になるのか?
結論から言うと、多頭飼育崩壊は、状況によって動物愛護管理法違反として罪に問われる可能性があります。
動物愛護管理法における罪
動物愛護管理法では、動物をみだりに傷つけたり殺したりすること、遺棄することなどを禁じています。多頭飼育崩壊によって動物たちが飢餓や病気、虐待などで苦痛を受け、死に至る場合、これらの罪に該当する可能性があります。
具体例
- 適切な餌や水を与えず、飢餓状態にさせて死に至らしめた場合:動物愛護管理法第44条第1項(動物の遺棄)
- 狭い空間に過密状態で飼育し、病気が蔓延し死に至らしめた場合:動物愛護管理法第44条第1項(動物の遺棄)
- 暴力を振るい、傷や病気を負わせた場合:動物愛護管理法第44条第2項(動物の虐待)
罰則
動物愛護管理法違反の罰則は、以下の通りです。
- 動物の遺棄:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 動物の虐待:5年以下の懲役または500万円以下の罰金
その他の罪
- 悪臭や騒音によって近隣住民に迷惑をかけた場合:迷惑防止条例違反
- 動物の死骸を放置して公衆衛生を害した場合:公衆衛生法違反
罪に問われるための条件
多頭飼育崩壊が罪に問われるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 動物が苦痛を受けている
- 飼い主が故意または過失によって苦痛を与えている
- 動物が死に至るなどの結果が生じている
飼い主逮捕の増加
近年、多頭飼育崩壊現場で動物愛護管理法違反などの疑いで飼い主が逮捕されるケースが増加しています。2023年には、全国で50件以上の逮捕者が出ており、問題となっています。
実際の逮捕事例
劣悪な環境で猫38匹を飼育、動物愛護法違反容疑で女を逮捕 沖縄・南大東、「多頭飼育崩壊」の状態か
犬18頭を劣悪な環境で飼育・虐待の疑いで男を逮捕 相次いだ通報
注意点
多頭飼育崩壊は、必ずしも罪に問われるわけではありません。
しかし、動物たちが苦痛を受けている状況を放置することは、倫理的に問題があります。
また、飼い主逮捕は、動物たちの苦痛を軽減し、問題解決に向けた一歩となる可能性があります。
ただし、逮捕後の動物たちの処遇や、再発防止策など解決すべき課題も多く残されているのです。
多頭飼育崩壊から抜け出すために
多頭飼育崩壊から抜け出すには、以下のような方法があります。
- 行政や動物愛護団体に相談する
- 飼育頭数を減らす
- 飼育環境を改善する
- 知識と技術を身につける
- 周囲の理解と協力を得る
- 特殊清掃会社に相談をする
一人で悩まずに第三者に相談してみることで解決の糸口につながる可能性があります。
特殊清掃会社にできること
私たちのような特殊清掃会社ができることについて説明させていただきます。
私たちは普段から通常の清掃では対応が困難な現場の清掃作業をメインとしている会社です。多頭飼育崩壊現場のペットの排泄物汚物にまみれたごみの除去撤去も、独特なペット臭も必要に応じた消臭作業や原状回復工事も行えます。状況に応じて、弊社では犬や猫の保護も行います。
悩んでいるだけでは何も解決しません。一緒にどうすることが飼い主とペットにとって一番いい方法なのか考えていきましょう。これまでの経験から何かお役に立てることがあるはずです。
多頭飼育崩壊を防ぐためにできること
多頭飼育崩壊を防ぐためにはどのようにしたらいいのでしょうか?対策を事前に知っておくことで今後のペットとの生活に役立つことがあるはず。いくつかご紹介しておきます。
飼い主としてできること
- 知識を深める
多頭飼育崩壊の実態や原因、予防策について学びましょう。知識を深めることで、問題の早期発見や適切な対応が可能になります。ブリーダーさんやペットショップ、獣医さんに相談してみるのもいいでしょう。また、
- 周囲に気を配る
周囲にペットを飼育していることで迷惑をかけていないか客観的に見てみるのもいいでしょう。例えば敷地外に糞や尿を排泄していないか、夜間の無駄吠えはうるさすぎないか、臭いの問題はどうか、脱走の対策はしっかり行えているかなど確認をしてみましょう。
- 責任ある飼育
動物を迎え入れる前に、責任を持って飼育できる環境を整えましょう。飼育頭数や経済状況、時間的な余裕などを考慮することが重要です。
- 責任と覚悟を持つ
動物を飼う前に、責任と覚悟を持つことが重要です。動物は一生涯の家族であり、愛情と適切な飼育環境を与える必要があります。
- 適切な飼育環境を整える
動物の種類や数に合った広さや設備を備え、清潔な環境を維持しましょう。適切な食事と健康管理をし、室内の安全にも気を配る必要があります。
- 動物たちの心身のケア
動物たちは愛情を求めています。コミュニケーションを大切にし、心のケアも忘れずにしましょう。
- 知識と経験を身につける
飼育に関する知識や経験を学び、問題行動の早期発見・対応に努めましょう。
地域社会の協力
- 見守り
周囲の状況に注意を払い、多頭飼育崩壊の兆候があれば行政や動物愛護団体に早めに相談しましょう。
- 孤立を防ぐ
もしも飼育に困っている飼い主がいた場合には孤立させずに、地域社会全体で支えていく意識を育みましょう。
- 情報提供
多頭飼育崩壊に関する情報提供やボランティア団体への相談を行いましょう。
私たち一人一人の行動が重要
多頭飼育崩壊を防ぐためには、行政や動物愛護団体だけでなく、私たち一人一人の行動が重要です。問題に関心を持ち、できることから行動を起こしていきましょう。
- 地域社会:見守り、孤立を防ぐ、情報提供
周囲の状況に注意を払い、多頭飼育崩壊の兆候があれば行政や動物愛護団体に相談しましょう。困っている飼い主を孤立させず、地域社会全体で支えていく意識を育みましょう。
多頭飼育崩壊は、決して他人事ではありません。
ペットを飼う誰しもが可能性のある問題です。かわいい家族とこれから先もずっと一緒に過ごせるように飼い主としての責任ある行動をしていきましょう。また、他人事だからと見ぬふりをせず、地域の皆さんも多頭飼育崩壊の兆しがあった場合は相談にのるなどの対応にご協力ください。
特殊清掃会社のスタッフとして、どうしようもなくなってしまったときはご相談を受け付けております。恥ずかしい事でも叱られるわけでもないので大丈夫です。ぜひご相談ください。