近年、高齢者の家がゴミ屋敷化してしまうケースが多く、高齢者が直面する大きな問題の一つと言えるでしょう。そして、高齢化が進む現代において身近な問題になったと言えます。高齢者のゴミ屋敷問題は中々気づかれることがなく病気やケガをして初めて室内が高齢者の生活に適さないと気づかれるケースが多いのが現状です。
なぜ高齢者のゴミ屋敷化が発生してしまうのでしょうか。今回の記事ではその原因や対策・解決方法をご紹介いたします。
高齢者のゴミ屋敷化の原因とは
高齢者のゴミ屋敷が発生してしまう原因として考えられるものは以下になります。
- 年齢による心身の衰え
- ごみの分別がよくわからない
- もったいなくて物が捨てられない
- 認知機能の低下
- 社会的に孤立してしまう
- 溜めこみ症
- セルフネグレクト
年齢による身体能力の衰え
高齢になると誰であっても精神や身体能力が衰えていきます。
心身が衰え、ことによって、ゴミの日にゴミを出したり、ゴミを分別して捨てるといった日常的な事に対してとても億劫に感じてしまい、ゴミ屋敷化が発生してしまいます。ビンなどは収集の回数も少なく重さもあるため集積所に運ぶのも大変ですよね。
このように高齢化により、「精神や体の働きが弱くなってしまった状態」をフレイル、「筋肉量が減少していく現象で、立ち上がりや歩行が億劫になり、歩行困難を引き起こしてしまう現象」をサルコペニアと言います。
フレイル | 加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。※健康長寿ネットより引用 |
サルコペニア | 加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指します。歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったります。※健康長寿ネットより引用 |
フレイルとは | 健康長寿ネット (tyojyu.or.jp)
サルコペニアとは | 健康長寿ネット (tyojyu.or.jp)
もったいなくて物が捨てられない
ゴミ屋敷になってしまう高齢者の心理に、「物を捨ててはいけない」という心理が働いてしまう場合があります。これは、戦時中や戦後の物が潤沢でない時代を経験していることで、不要な物でも「もしかしたらいつか使うかもしれない」と思い込み、必要以上に物を溜め込んでしまうのです。実際、高齢者の住宅には引き出物で何十年も前に貰ったものや賞味期限が何年も前に切れてしまっている缶詰などが大量に出てきます。確かに新品、未開封品ですが長期保管品のためシミや虫食いがあったりと使用には適さない物が大半です。
高齢者は若い世代とは比べ物にならないほど、もったいないという気持ちが強いので、ゴミ屋敷化が加速してしまうケースが増えてしまいます。
認知症による認知機能の低下
認知症を発症することで、理解力や判断力や倫理等の知的機能が低下してしまい、ゴミの日を忘れてしまったり、ゴミの分別ができなくなってしまいます。
ニッセイ基礎研究所による「令和5年全国将来推計人口値を用いた全国認知症推計」(全国版)では、65歳以上の高齢者層がピークとなる2024年には46.3%が認知症の可能性があるとしています。
統計局ホームページ/令和4年/統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口 (stat.go.jp)
また、認知症を発症すればもちろんのこと、認知症と診断されるレベルでなくても加齢により徐々に認知機能が低下してしまうため注意が必要です。変わらないように見えても、認知機能が低下し判断力が弱まることで、ゴミ屋敷化することがあるのです。
ホーダー(溜めこみ症)
ホーダー(溜めこみ症)とは、物を過剰に集めることで喜びや安心感を得る一方で、不要な物であっても捨てることに不安や罪悪感、後悔といった苦痛を感じてしまう精神疾患のことです。
他人から見ると明らかにゴミに見える物やガラクタであっても、本人は囲まれていることで安心感を得ることができるため、どんなに不要なゴミでも捨てるという考えにならず、ゴミ屋敷化が加速してしまいます。ホーダーを発症してしまう原因はハッキリしていないませんが、遺伝的な要因や幼少期の環境によるものだと考えられています。
また、ホーダーが精神疾患として認められたのは2013年と最近のことで、明確な治療法がまだない状態です。
セルフネグレクト
高齢者のゴミ屋敷が発生してしまう原因の一つとして、「セルフネグレクト」が考えられます。
セルフネグレクトとは、食事や着替えなど、本来であれば日常生活の中で行うべき行為をしない、あるいはできないため、心身の安全や健康状態を脅かす危険がある状態のことです。
セルフネグレクトでは、以下のような行為を行うことが難しくなります。
- 入浴をする
- 外出をする
- 食事を摂る
- トイレで排泄をする
こうした「今まで当たり前に行ってきた行為」ができなくなることで、セルフネグレクトが原因でゴミ屋敷化してしまうケースは少なくありません。また、ゴミ屋敷化してしまうだけでなく、生きる上で必要な行為をしなくなってしまうため、孤独死を招いてしまう恐れがあることも重要な問題になります。
ゴミ屋敷化によって起こり得るトラブルとは
高齢者のゴミ屋敷を手が付けられないといってそのまま放置するのは非常に危険です。高齢者が住むゴミ屋敷を早急に片付けなければ様々なトラブルが発生してしまうリスクがあります。
発生リスクのあるトラブルは以下のものが考えられます。
- 不衛生な環境により病気の原因になる
- 孤独死のリスクが高まる
- 近隣住民とのトラブルになりやすい
- 火災発生の危険性が高まる。
不衛生な環境により病気の原因になる
高齢者のゴミ屋敷を放置すると、不衛生な環境により病気の原因になります。高齢のため抵抗力が低く、不衛生なゴミに囲まれていては簡単に病気になってしまうでしょう。
また、病気を発症してもフレイルやサルコペニアの症状により通院せず、そのまま症状が悪化して亡くなってしまうケースもあります。
孤独死のリスクが高まる
ゴミ屋敷を放置することで、そのまま高齢者が孤独死してしまうリスクが高まります。ゴミ屋敷の不衛生な環境によって病気を発症し、症状が悪化してしまい亡くなってしまうケースもあります。
また、積み重なったゴミが崩れて下敷きになってしまったり、セルフネグレクトによって食事を摂らずに栄養失調で亡くなってしまう場合もあります。
近隣住民とのトラブルになりやすい
長期間放置されたゴミ屋敷からは異臭や害虫が発生し、近隣への迷惑になってしまいます。結果的に近隣住民からクレームとなり、退去や行政代執行に発展してしまう可能性があります。
行政代執行とは、自治体が「所有者の代わりに適正な管理に向けた取り組みを行うこと」です。代わりに清掃を行いますが、本来所有者の責任なので、作業後にかかった費用を請求されることになります。
火災発生の危険性が高まる
ゴミ屋敷を放置することで、火災の危険性が高まります。埃がコンセントに被って引火し、火災が発生してしまうと、溜まったゴミが燃料になってしまい瞬く間に家中に火の手が広がってしまうでしょう。短時間で燃え広がることで消火までに時間がかかり、周囲の建物に引火してしまい、被害が大きくなる恐れもあります。
また、住人が火災に気付いて逃げようとしても足元のゴミが邪魔になってしまい、逃げ遅れて亡くなってしまう可能性も高くなってしまいます。
高齢者のゴミ屋敷化を未然に対策するには
ゴミ屋敷問題は、住んでいる高齢者自身だけでなく、家族や地域社会、環境にまで影響を及ぼします。
では、具体的にどのような対策があるのでしょうか?未然に防ぐ方法として考えられるものとして以下の方法が挙げられます。
- 定期的な整理整頓
- コミュニケーションを多くとる
- ゴミ屋敷の危険性を知ってもらう
定期的な整理整頓
まず最初に考えられる対策として、家がゴミで溢れてしまう前に物を整理しておくことが重要です。
自分で整理整頓ができればそれに越したことはありませんが、高齢者は心身の衰えにより自分自身で整理整頓を行うことが難しいケースがあります。その場合、家族が定期的に自宅を訪れて片付けたり、費用はかかりますが、清掃業者に依頼することで家を清潔な状態に保つことができます。
コミュニケーションを多くとる
ゴミ屋敷化する高齢者は、「寂しい」という気持ちを抱えている場合が多いです。そもそも物を集めてしまうきっかけの一つとして、「物を集めることで寂しさを紛らわすため」と考えられます。寂しいという感情は、ゴミ屋敷化と密接な関係であると考えられるでしょう。
定期的にコミュニケーションをとることで、寂しいという気持ちが減り、物を集めてしまう行動を抑制することができます。また、会話をすることで高齢者の些細な変化に気付ける可能性があるため、ゴミ屋敷化を未然に防ぐ方法として有効だといえるでしょう。
ゴミ屋敷の危険性を知ってもらう
ゴミ屋敷に住んでいる高齢者には、「生活できているんだから大丈夫」と思い込んでいて、ゴミ屋敷に対し、問題だと感じていない場合があります。これは、ホーダー(溜めこみ症)を発症している人に多く見られます。
ゴミ屋敷であることに対して住んでいる本人が問題を感じていなければ、周囲の人がいくら片付けをしてもすぐに元のゴミ屋敷に逆戻りしてしまいます。さらに、部屋を片付けられたことに対して怒りを覚え、家族や周囲の人との仲が険悪になってしまう場合も考えられます。そうなってしまうと片付けができなくなる可能性や、誰も家に入れようとしなくなってしまう可能性があります。
ゴミ屋敷のリスクについて理解してもらい、本人から家を片付けることに同意してもらうことが大切です。youtubeなどの動画配信サイトを利用してゴミ屋敷のリスクを動画で見せることも有効な手段の一つと考えられます。
ゴミ屋敷になってしまった場合の解決方法
ゴミ屋敷化を未然に防ぐ方法をご紹介しましたが、既にゴミ屋敷になっている状態の場合どうすれば解決することができるでしょうか?
ここからは、不衛生な状態のゴミ屋敷から片付けられた綺麗な家に戻すための解決方法について解説していきます。
解決方法として以下の方法が考えられます。
- 自分たちで片付ける
- 自治体などの支援を利用する
- 介護サービスを利用する
- 清掃業者に依頼する
自分たちで片付ける
まず考えられる手段として、自分たちで片付ける方法です。
本人や親族・知人などで集まってゴミを片付けられれば費用を大きく減らすことができます。特にゴミの量が少なく、搬出に人数を必要としない場合は有効な方法と言えるでしょう。
しかし、ゴミの量が多い場合は作業に多くの時間がかかり、心身の疲弊から途中で挫折してしまう可能性もあります。多くの時間がかかることで高齢者本人への負担も大きくなってしまう点も考えなければならないでしょう。
また、作業する際は高齢者任せにすることは難しいため、できる範囲での最大限のフォローが必要になります。その際は住んでいる高齢者を責めないことと本人に確認せずに一方的に捨ててしまわないことに注意しましょう。
責めることで心にダメージを負ってしまい、収集癖が悪化してしまったり、一方的に捨てたことに激怒し、関係が悪化してしまう危険性があるためです。
自治体などの支援を利用する
家がゴミ屋敷になってしまった高齢者の中には、認知症を発症していたり、身体能力の低下で歩行が困難な人が多く見られます。このように身体的に問題がある人の場合、自分で片付けをするのが困難な状況になります。
このようにゴミ出しが困難になってしまうと一気に家がゴミ屋敷化してしまうでしょう。自分では片付けが困難な場合は自治体や地域の支援を利用することも一つの手段です。
環境省では、近年の高齢化社会に伴って地方公共団体による支援や取り組みを導入するよう促しています。このサービスは、自分でゴミ捨てに行かなくても玄関までゴミ収集に来てくれるため、ゴミを溜め込んでしまうことがなくなるでしょう。
高齢者のごみ出し支援制度 導入の手引き 環境省より引用
介護サービスを利用する
認知症などの病気が理由でゴミ屋敷化してしまう場合は、介護保険の介護サービスを利用することも視野に入れましょう。介護サービスを利用できる条件は、要介護認定で要支援または要介護と判断された65歳以上の人が対象となります。また、厚生労働省が指定する16種の特定疾病に該当する場合は、40歳以上65歳未満の方も利用することができます。
特定疾病については厚生労働省ホームページにて詳しく解説しています。こちらもチェックしてみてください。
特定疾病の選定基準の考え方|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
ただし、ゴミ屋敷となっている家の片付けや、ゴミの廃棄などは介護サービスの対象外となりますので注意しましょう。
清掃業者に依頼する
自分たちでゴミを片付ける最大のメリットは、「費用が抑えられる」ということです。
しかし、自分たちでゴミ屋敷を片付けるには、多大な労力や時間がかかってしまう大きなデメリットと向き合うことになります。
家の状態によっては腐ってしまった食べ物や汚物、大量の害虫の駆除など、作業する人にとっては大きな苦痛を感じてしまうことがあります。また、ゴミによる壁などの黒ずみや、汚れ、悪臭の除去に限界があるため、完全に清潔な部屋に戻すのが困難な場合があります。自分たちだけでは厳しいと感じたら無理せずに専門の業者に依頼することを検討しましょう。
業者に依頼することのメリットは「自分で手間や労力をかけずに短時間で綺麗にできる」ことです。もちろん費用がかかるデメリットはありますが、業者であれば短時間で作業が終わるため、住人の負担も軽減できます。
また、長時間放置された食品が床や壁にこびり付いていたり、浴室やトイレのカビなどの汚れや臭いは普通の清掃作業だけでは取り除くことが困難な場合があります。このような汚れの除去は、特殊清掃業者に依頼するのがいいでしょう。
特殊清掃では特殊な薬剤や技術などを利用し、床や壁内に残ってしまった汚れや臭いを除去することができます。
まとめ
今回の記事では、高齢者が引き起こすゴミ屋敷について、その原因や発生する可能性があるトラブル、対策などについて解説させていただきました。
高齢者の数は年々増加しており、ゴミ屋敷問題がさらに身近な問題になるかもしれません。
高齢者のゴミ屋敷問題の大きな原因は「年齢による心身の不自由」「孤独感」などで、年を重ねれば誰でもゴミ屋敷になってしまう可能性があるでしょう。
まずはゴミ屋敷化を未然に防ぐために、家族で定期的に連絡を取ったり、こまめに整理整頓を行うことが重要です。
また、高齢者の住まいがゴミ屋敷化してしまった場合、せっかく綺麗に片付けても自力でその状態を維持することは難しいでしょう。特に疾患などで自力で片付けたり、ゴミ出しができない場合すぐに元のゴミ屋敷状態に戻ってしまいます。
片付け後も継続して見守っていくことが再発防止に繋がるでしょう。
もしご実家がゴミ屋敷のような状態になってしまったと気づいた場合はけが防止のためにも早めの対応をしてください。私たちでお手伝いできることがあればご相談だけでも大丈夫ですのでご連絡ください。